オンプレ回帰の裏に潜むクラウドのデメリット その回避策とは

オンプレ回帰の裏に潜むクラウドのデメリット その回避策とは

2022.03.10 公開
国内ではここ数年で飛躍的に伸びているクラウド市場。
特に新型コロナウイルスの流行によりテレワークの導入が一気に広まり、今まで様子をみてきた多くの企業がクラウド利用へとシフトしています。
一方で、近年海外を中心にパブリッククラウドからオンプレミスに回帰する現象が顕著になっています。
その背景には何があるのか、企業は今後どんな選択を取るべきか─。
オンプレミス回帰の裏にあるクラウドのデメリットと、そこを回避した最適な環境を考えてみましょう。
INDEX
1.日本でも進むオンプレ回帰の波
2.パブリッククラウドのデメリット
3.クラウドとオンプレミスの棲み分けがカギ
4.ハイブリッドクラウド導入例
5.どんな構成でも意識すべき「3-2-1ルール」

1.日本でも進むオンプレ回帰の波

日本でも進むオンプレ回帰の波

世界中でインターネットが普及する前、企業は情報システムを自社で物理的に構築するオンプレミス型での運用が一般的でした。
そしてインターネットの爆発的普及に伴い、ITインフラ環境をクラウドへ移行する企業が少しずつ増え、ここ数年ではクラウドファーストの考え方が一気に加速しました。

ところが近年になり、一度はパブリッククラウドへ移行したITインフラをオンプレミス環境に戻す「オンプレミス回帰」という言葉が海外を中心に囁かれ始め、 現在は日本でもその傾向は顕著になりつつあるのです。

米調査会社IDCが2018年に行ったアンケート調査では、主にパブリッククラウド環境に置かれていたアプリケーションやデータのプライベートクラウドやオンプレミス環境への移行傾向を調べる 問いに対して81%の企業が「はい」と答えています。翌年2019年の同調査では85%に増加しています。

これは決して海外だけの出来事ではなく日本でも同様の傾向が進み始めていることがわかってきました。
2020年にIDC Japanが発行した「2020年 国内ハイブリッドクラウドインフラストラクチャ利用動向調査」による、 パブリッククラウドからオンプレミスのインフラへの移行傾向は「移行実績あり」で86.3%、「2年以内の移行予定」では88.9%にものぼります。
パブリッククラウドを利用している(または利用していた)企業のほとんどが、オンプレミス環境を見直していることは明らかです。

日本では「時代はクラウドだ!」といった雰囲気であることは間違いありませんが、 その裏で浮彫になってきたクラウドのデメリットが許容範囲内で収まらないことが、上記調査結果から透けて見える気がします。

2.パブリッククラウドのデメリット

パブリッククラウドのデメリット

では、実際にパブリッククラウドに移行したITインフラをオンプレミスに戻した、あるいは戻す予定であるという企業にとって何が問題となったのでしょうか。
運用コストの把握がしづらい
オンプレミスでのハードウェア導入や周辺機器の調達・設定などに比べると、従量課金のクラウドストレージは一見とても安価に見えます。 実際、クラウドストレージは初期投資いらずですぐに利用開始でき、使用した分だけ支払えば良いので多くの企業にコストメリットを生み出しています。

しかしパブリッククラウドでは使用分のストレージ容量だけではなく、アクセス数やデータ転送量による課金、多種多様な追加サービスがあり全体の運用コストが予測・把握しづらいというデメリットがあります。 サービスの料金体系のわかりにくさゆえ思わぬ追加費用が発生し、結果的に割高になってしまうケースが発生します。
この問題は導入前には見えづらく、実際に運用を開始して請求書を見て初めて気付くパターンが非常に多いのでしょう。
セキュリティの問題
オンプレミス回帰の理由として大きな割合を占めるのがこのセキュリティの問題であり、同時にパブリッククラウドの導入を妨げている問題でもあります。 もちろん各社クラウドベンダーは何重にもわたる徹底的なセキュリティ対策を施しています。

しかし多くのユーザーが勘違いしている点として「何かあったとき」の「責任の所在」について。 ユーザーは、これを明確に示している「責任共有モデル」を理解しておく必要があるでしょう。

責任共有モデルとは、クラウド事業者と利用者の管理権限に応じた責任分担の考え方で、クラウドサービスにおけるセキュリティ対策では、 事業者はサービスのインフラストラクチャの保護責任があり、利用者はユーザーデータやユーザー情報などの保護責任があるということです。

つまり、クラウド上のユーザーデータは利用者の責任において保護されるべきとされていて、国際的なクラウド事業者はこれに基づく責任分担を表明しています。
自社のセキュリティーポリシーに合わせた厳重な監視体制や柔軟なコントロールは、自由度の低いパブリッククラウドでは難しいことから大きなデメリットとして挙げられます。
パフォーマンスの問題
パブリッククラウドではサーバーとCPUを複数のユーザーで共有するため、多くのユーザーが複数同時にアクセスすると負荷がかかり、従来のオンプレミス環境より処理パフォーマンスが落ちる場合があります。 それによる業務効率の低下が許容範囲であるかそうでないかが判断基準となってきます。
クラウドロックイン
パブリッククラウドサービスは、保存コストが安価に設定されている一方で、データのダウンロード料金が高めに設定されている場合があります。 そのため、一度利用し始めるとデータのダウンロード回数を制限せざるを得なかったり、他サービスへの移行が容易ではなくなります。
そうなると、クラウドベンダー側の一方的な価格改定やサービス変更があった場合でも従わざるを得なくなるという悪循環に陥ります。 このように、単一のクラウドベンダーに縛られている状態を「クラウドロックイン」といい、近年課題として顕著化してきています。

3.クラウドとオンプレミスの使い分けがカギ

クラウドとオンプレミスの使い分けがカギ

パブリッククラウドのデメリットにばかり焦点をあて紹介しましたが、もちろんメリットもたくさんあるのは間違いありません。 ビジネスにおけるITインフラ全体を俯瞰で見てみると、クラウドに向いているシステムとそうでないシステムがあることが見えてきます。

重要なのは、パブリッククラウドかオンプレミスかどちら一方に絞るのではなく、双方のメリット・デメリットを良く理解し正しく使い分けること。 これが、最近よく耳にする「ハイブリッドクラウド」です。

ハイブリッドクラウドにはパブリッククラウドとオンプレミスの他にプライベートクラウドも選択肢に含まれてきますが、 ひとまずここではクラウド=パブリッククラウドとして紹介します。
使い分けの例
業務やシステムをクラウドとオンプレミスに振り分けるには、ビジネス形態によるところが大きく一概には言えませんが、 例えば個人情報などの機密性の高いデータを格納するシステムはオンプレミス環境で自社運用し、 それ以外のデータはパブリッククラウドで管理してコストを抑えることができます。

また、一般的な業務プロセスでカバーできるような会計・販売管理システムなどはクラウドを使用し、 独自のカスタマイズが必要な場合や、既存のシステムが大規模だったり複数のシステムを抱えている場合は連携や移行が困難になるためオンプレミスでの運用が良いでしょう。
ハイブリッドクラウドのメリット・デメリット
ハイブリッドクラウドを選択する要因として大きいのが、効率性です。 パブリッククラウドのデメリットととなる部分はオンプレミス環境で運用し、その他の部分をクラウド利用することで、双方の良いとこ取りすることができます。
コスト面、セキュリティー面、パフォーマンス面でメリットの大きい方を選択し効率性を確保することができます。

一方で、ハイブリッドクラウドを選択するということはシステムが分散することを意味しています。 当然、構成も複雑になるでしょう。 ハイブリッドクラウドのメリットを最大限活かすには、それぞれの環境に合わせた構成を組まなくてはならないため、 ある程度の知識を持ったシステム管理者が担当する必要があります。
分散したシステムを一元的に管理・運用するにしても同様に、自社要件に適したサービスを選択するための知識と技術力は欠かせないでしょう。

4.ハイブリッドクラウド導入例

取り扱う情報によって、重視すべき項目は変わってきます。 クラウドとオンプレミスそれぞれのメリット・デメリットをよく理解し使い分けることで、ハイブリッド環境の効果を最大限活かすことができるでしょう。
負荷分散重視
外部からのアクセス集中に備えるため、常時システムを増強するのは無駄がありコストパフォーマンスが悪いと言えます。 イベントの開催期間や一時的にアクセス集中が予想されるタイミングのみクラウドサーバーを増強することで、コストを抑えながらサーバーダウンの回避をすることが可能です。
BCP対策重視
もし自社のオンプレミス環境でのみ運用していた場合、災害で全てのデータを消失するリスクがあります。 反対にパブリッククラウドでのみ運用していた場合、大規模な停電やネットワーク遮断が発生したら、クラウド上のデータは無事であってもすぐに活用することは不可能でしょう。

BCP対策として重要なのは、災害などの有事の際、迅速にシステムを復旧させ事業停止時間を短くすること。 クラウドとオンプレミスにデータを置くことで重要なデータを全消失するリスクを軽減し、災害後の復旧をいち早く行い事業を継続することができます。

5.どんな構成でも意識すべき「3-2-1ルール」

データは少なくとも3つ持つ

事業形態や扱う情報の重要度によって、クラウドとオンプレミスを適切に使い分けることがハイブリッドクラウドのメリットを活かすカギとなるでしょう。
しかし忘れてはならないのが、どのような構成であっても必ずバックアップを行うこと。

上記の「BCP対策」でも紹介した通り、オンプレミスでもクラウドでも災害におけるリスクが存在します。
災害以外でも事業継続の危機に陥れる不安要素は多岐にわたります。

あらゆるリスクに対応できるよう「バックアップの冗長性」を重視したバックアップ方式のことを「3-2-1ルール(※)」といいます。 プライマリデータがクラウドにあろうとオンプレミスにあろうと「3-2-1ルール」に則ったバックアップを行うことが重要です。

※「3-2-1ルール」とは
① データは少なくとも「3つ」持つ
 …プライマリデータを含めて3つという意味で、バックアップとしてのコピーは2つ以上作成しましょう。
② コピーを「2つ」の異なる媒体に保存する
 …バックアップデータは、特性の異なる2種類以上の媒体に保管することで同時に失うリスクを低減します。
③ 「1つ」のバックアップをオフサイトに保管する
 …3つのデータのうち、1つは物理的に離れた遠隔地(オフサイト)に保管することが推奨されています。

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